グランドセイコーを腕に着ける喜びは、その精緻な美しさと、時を超えて正確に時を刻み続ける信頼性にあります。しかし、最高のパフォーマンスを維持するためには、避けて通れないのが「オーバーホール」、すなわちコンプリートサービスです。
「何年ごとに出すのが正解?」
「正規サービスと専門店の違いは?どこに持ち込めばいいの?」
「料金がまた値上がりしていないか心配……」
オーナーなら誰もが抱く、こうした不安や疑問を解消するために、本記事を作成しました。
2025年9月現在の公式サイト最新情報に基づき、グランドセイコーのメンテナンスに関する全てを解説します。愛機を長く、最高の状態で愛用し続けるための持ち込み先の選び方から、モデル別の推奨頻度、そして最も気になる正規料金まで、全てを明らかにします。この記事で知識を深め、自信を持ってメンテナンスを依頼しましょう。
- 正規サービスへの持ち込みがもたらす安心感と、事前に準備すべきこと
- ムーブメント別(9S/9R/9F)の最新オーバーホール推奨頻度と適切な時期
- 正規サービス(コンプリートサービス)の2025年最新料金目安と、高額になる要因
- 持ち込み時でも発生するロジスティクス費用や、修理後の保証の価値
グランドセイコーのオーバーホール持ち込み先:正規サービスと専門店の決定的な違い

- なぜ「持ち込み」を選ぶのか?対面依頼のメリットと準備
- 持ち込み先の二大選択肢と選定基準
- モデル別の「コンプリートサービス」の目安と推奨年数
大切なグランドセイコーのメンテナンスをどこに託すか、この選択は時計の寿命と性能に直結する、オーナーにとって最も重要な決断の一つです。主な依頼先は、メーカーが提供する正規サービスと、高い技術を持つ時計修理専門店の二択に絞られます。
特に「持ち込み」という手段を検討している方は、対面で相談できる安心感や、実際にお店の雰囲気や担当者の対応を確認したいという強い思いがあるはずです。ここからは、まず「持ち込み」がもたらすメリットを解説した上で、それぞれの持ち込み先が持つメリットとデメリットを明確に比較していきます。
なぜ「持ち込み」を選ぶのか?対面依頼のメリットと準備
オーバーホールを依頼する際、郵送で済ませる方法もありますが、多くの方が「持ち込み」を選ぶのは、単に手間を省くためだけではありません。そこには、高額で大切な時計を預けるオーナーならではの、精神的な安心感と実務的なメリットが存在します。
持ち込みを選ぶ最大のメリット:安心感と確実性
- 症状の正確な伝達と共有
- 時計の不具合は、「時々止まる」「カレンダーがうまく切り替わらない」といった、文章では伝えにくい微妙な症状が多いものです。持ち込みであれば、スタッフに現物を見せながら具体的な症状を説明できるため、修理担当者へ情報が正確に伝わりやすくなります。
- 疑問や不安の直接的な解消
- 「このキズは研磨で消えるのか?」「今回はオーバーホールだけで大丈夫か?」など、気になる疑問をその場で質問し、納得した上で依頼を進めることができます。特に初心者の方にとっては、料金や作業内容への不安を解消できる貴重な機会となります。
持ち込み前に準備すべきこと
スムーズな受付のために、以下の準備をしておきましょう。
- 保証書(ギャランティーカード)の確認
- 必須ではありませんが、正規品である証明や保証期間の確認に重要です。
- 保証期間内であれば無償修理を受けられる可能性があるだけでなく、保証期間が過ぎていても、その時計の素性(正規品であること)を証明できます。
- 症状・要望のメモ
- 「いつ頃から、どのような時に不具合が発生するか」を具体的にメモしておくとスムーズです。
- 特に外装の仕上げ(研磨)を希望するかどうかも伝えておくと良いでしょう。
持ち込み先の二大選択肢と選定基準
グランドセイコーのオーバーホール持ち込み先は、主に「正規サービス」と「時計修理専門店」の二つに分けられます。それぞれが持つ強みと弱みを理解し、あなたの時計の状態やご自身の優先順位に合った依頼先を選ぶことが、長期的な満足度につながります。
1. 【純正部品と技術の安心感】正規サービスセンター
グランドセイコーの「コンプリートサービス」を提供する正規ルートです。セイコーウオッチのサービスセンターや、グランドセイコーブティックなどが受付窓口となります。
メリット(強み) | デメリット(弱み) |
純正部品の供給:交換が必要な部品はすべて純正品を使用するため、時計本来の性能が維持される。 | 費用が高め:作業内容が細かく定められており、修理専門店と比較して基本料金が高くなる傾向がある。 |
メーカーの専用技術:高度な専門知識と専用設備を持つ技術者(グランドセイコーサービススタジオ所属)が対応する。 | 納期が長め:修理依頼が集中すると、見積もりから完了まで数ヶ月単位の時間がかかることも。(実状:オーバーホールの場合は最短でも5週間、複雑な修理や混雑状況によってはそれ以上かかる) |
修理後のメーカー保証:作業完了後、一定期間(例:1年間など)のメーカー保証が付くため、再度の不具合にも安心。 | 柔軟性の低さ:基本サービス内容が決まっており、部分的な修理や作業の柔軟な調整が難しい場合がある。 |
最新受付体制(2025年9月時点の想定)
大規模なサービスセンターやブティックでは、スムーズな案内のために事前予約を推奨しているケースが増えています。特に週末や祝日は混雑が予想されるため、公式サイトで最寄りの窓口の営業時間や予約ルールを事前に確認してから持ち込むのが賢明です。
2. 【費用と納期の選択肢】信頼できる時計修理専門店
メーカーとは独立した修理工房です。高い技術力を持つ職人が在籍しており、特にヴィンテージモデルや特殊な修理に柔軟に対応できる場合があります。
メリット(強み) | デメリット(弱み) |
費用が抑えられる可能性:正規サービスよりも基本料金が安価に設定されている場合がある。 | 純正部品の確約がない:メーカーから部品の供給が受けられない場合、同等の汎用部品が使われる可能性がある。 |
納期が比較的短い:工房の混み具合にもよるが、正規サービスよりも短期間で修理が完了するケースがある。 | 技術力のバラつき:すべての修理専門店が高品質なわけではないため、事前の技術力や実績の見極めが不可欠。 |
柔軟な対応:オーナーの要望に応じて、部分的な修理やオーバーホール以外の依頼にも応じやすい。 | 修理後の保証:保証期間や内容が店舗ごとに異なるため、必ず事前に確認する必要がある。 |
依頼先選定の判断基準
どちらに依頼するかを判断する際は、以下の基準を参考にしてください。
- 純正部品の重視度
- リセールバリューや時計の完全な状態を重視するなら、費用が高くても正規サービス一択です。
- 予算と納期
- 費用を抑えたい、あるいは急ぎで仕上げたい場合は、信頼できる修理専門店を検討します。
- モデルの古さ/特殊性
- 現行モデルは正規サービスが最も安心ですが、ヴィンテージやアンティークの場合、メーカーでの対応が難しいことがあり、技術力の高い専門店が頼りになるケースもあります。
モデル別の「コンプリートサービス」の目安と推奨年数

グランドセイコーのオーバーホール、すなわちコンプリートサービスを依頼する頻度は、時計に搭載されているムーブメント(駆動方式)によって大きく異なります。精緻な機構を最適な状態で保つためには、メーカーが推奨する年数を守ることが非常に重要です。
この推奨年数を無視し、潤滑油が劣化した状態で使い続けると、部品が摩耗し、やがてはより大規模で高額な修理が必要になるリスクが高まります。あなたの愛機がどのタイプかを確認し、適切なタイミングでメンテナンスを行うようにしましょう。
ムーブメント別の推奨頻度(2025年9月現在の目安)
ムーブメントの種類 | 主なモデル(ムーブメント名) | 推奨オーバーホール目安 | 頻度の理由とオーナーへのアドバイス |
メカニカル(機械式) | 9S系(9S65、9S85など) | 約2~3年 | 非常に高精度な機械式ムーブメントは、多数の金属パーツが常に摩擦し合うため、潤滑油の劣化が性能に最も大きく影響します。推奨頻度の中で最もシビアです。 |
---|---|---|---|
スプリングドライブ | 9R系(9R65、9R86など) | 約3~4年 | 機械式とクォーツのハイブリッド機構ですが、駆動の要であるトライシンクロレギュレーターは、摩耗が少ないためメカニカルよりもやや長めの設定です。 |
クォーツ | 9F系(9F83、9F62など) | 約7~8年 | 摩耗部品が少なく最も頻度が低いタイプです。通常は電池交換のタイミングで、防水パッキンの交換や内部点検を兼ねてコンプリートサービスを検討するのが効率的です。 |
長期放置のリスク:「10年」の罠
インターネット上で「グランドセイコー オーバーホール 10年」というキーワードを見かけることがあります。「オーバーホールを10年行わない」「10年ごとにしかオーバーホールしない」という意味かもしれませんが、これは基本的に非推奨です。
特にメカニカルモデルの場合、5年を超える長期放置は、内部の潤滑油の乾きや汚れの固着を招きます。その状態で時計を動かし続けると、歯車や軸受けに深刻な摩耗が生じ、単なるオーバーホールでは済まず、多くの部品交換が必要となります。
結果的に、トータルコストが大幅に増加し、最悪の場合、供給が難しくなった部品のために修理不能になるリスクさえ伴います。正規サービスに定期的に持ち込み、適切なタイミングでメンテナンスを行うことが、時計の長寿命化と価値維持に直結するのです。
2025年最新!グランドセイコーの正規オーバーホール料金と長期的なコスト戦略

- 正規「コンプリートサービス」の最新基本料金と適用範囲
- 9Fクォーツモデルの個別サービス料金(電池交換と防水検査)
- 料金が高額になる要因と「値上げ」の傾向
- オーナーが重視すべき「修理後の保証」と「メンテナンス記録」の価値
- グランドセイコーオーナーのためのQ&A
- グランドセイコーのオーバーホール持ち込み:愛機を未来へ繋ぐための総括
グランドセイコーのオーナーにとって、オーバーホール(コンプリートサービス)は避けて通れない支出ですが、その料金は決して安いものではありません。特に近年、為替変動や原材料費の高騰などにより、高級時計のメンテナンス費用は上昇傾向にあります。
しかし、この費用は「修理費」と捉えるのではなく、時計の最高の性能を維持し、将来的な価値を守るための「投資」と考えるべきです。ここでは、2025年9月現在の正規料金の最新目安を基に、費用とサービス内容を明確に解説し、長期的に見て賢いメンテナンス戦略を立てるための知識を提供します。
正規「コンプリートサービス」の最新基本料金と適用範囲
グランドセイコーの正規サービスでは、一般的な「オーバーホール」を「コンプリートサービス」と呼びます。これは単なる分解掃除に留まらず、時計の性能を新品時に近い状態へ復元するための総合的なメンテナンスパッケージです。
2025年9月現在のムーブメント別 コンプリートサービス基本料金目安
正規料金は、搭載されているムーブメントの機構の複雑さに応じて設定されています。以下の料金は、部品交換が発生しない場合の最低料金(基本料金)であり、正確な料金は現物を確認したうえで見積もられます。
ムーブメントの種類 | 主なムーブメント名 | 正規コンプリートサービス 基本料金目安(税込み・2025年9月現在) |
クォーツ | 9F系(9F62、9S65など) | 58,300円~ |
---|---|---|
メカニカル | 9S系(9S65、GMT/ハイビートなど) | 79,200円~ |
スプリングドライブ | 9R系(9R65など) | 79,200円~ |
正規コンプリートサービスの内容は、 オーバーホールとライトポリッシュです。
【重要】持ち込みの場合も発生する諸掛り費用について
正規サービスへの持ち込みの場合、「店頭での受け渡しだから送料はかからない」と思われがちですが、実際は修理作業を行う専門部署(グランドセイコーサービススタジオ)への発送・返送の運賃が発生します。
修理代金が有償となる場合(保証期間外など)は、このロジスティクス費用がお客様のご負担となります。金額は、オンライン修理受付の送料と同額の一律料金(1,650円税込目安)となることが一般的です。
したがって、基本料金に加えて、この諸掛り費用も最終的な支払い総額に含まれることをあらかじめご承知おきください。
基本料金に含まれるサービス内容
この基本料金には、以下の必須作業がすべて含まれています。
- 分解・洗浄・再組立:ムーブメントを完全に分解し、すべてのパーツを洗浄・点検した後、注油して組み直す作業。
- 部品交換(必須パッキン類):ケースの防水性能を保つパッキン類や一部消耗品の交換。
- 調整:歩度調整(精度調整)、カレンダー動作などの機能チェック。
- 外装仕上げ(ライトポリッシュ):ケースやブレスレットの洗浄と、軽微な小キズを対象とした表面的な仕上げ(ライトポリッシュ)。
- 最終検査:防水性・精度チェックと、専門家による厳格な品質検査。
このコンプリートサービスこそが、グランドセイコーの高い精度と耐久性を保証する、最も信頼できるメンテナンスなのです。
9Fクォーツモデルの個別サービス料金(電池交換と防水検査)
グランドセイコーのクォーツモデル(9F系など)は、機械式とは異なり、オーバーホールとは別に「電池交換」という個別のメンテナンスサービスが存在します。オーナーは、時計の状態や予算に応じて、この標準サービスと上位の「バッテリープラスサービス」を選択できます。
9Fクォーツ向け正規サービス比較(2025年9月現在)
サービス名 | 料金目安(税込み) | 主なサービス内容 | 最大の付加価値 |
標準電池交換 | 8,800円 | 電池交換 裏蓋・リューズパッキン交換(純正品) 防水検査 | 基本の防水性能維持 |
---|---|---|---|
バッテリープラスサービス | 11,000円 | 標準電池交換の全て 回路の精度確認・調整 1年間の精度保証 バンド点検。 | 精度保証と調整 |
どちらを選ぶべきか?判断のポイント
- 標準電池交換
- 主に防水性能の維持を目的としています。精度に問題を感じていない場合や、予算を抑えたい場合に適しています。しかし、回路の調整は含まれません。
- バッテリープラスサービス
- 9Fクォーツの究極の精度を維持したいオーナーに推奨されます。プラス2,200円(※料金は要確認)の追加で、回路の精度調整と保証が得られるため、性能維持の観点からは最も推奨されるサービスです。
注意点:コンプリートサービスとの違い
これらのサービスは、ムーブメントを完全に分解・洗浄・注油するコンプリートサービス(オーバーホール)とは異なります。9Fクォーツであっても、油や部品の経年劣化を防ぐために、約7~8年ごとの推奨期間が来た際には、必ずコンプリートサービスを依頼して内部の分解掃除を行う必要があります。
料金が高額になる要因と「値上げ」の傾向
前項で解説した基本料金は、あくまで「ムーブメントの分解・清掃・注油」が中心であり、内部のパーツに摩耗や破損がない場合の最低料金です。しかし、多くのオーナーが初めて見積もりを受け取った際に驚くのが、この基本料金に加算される追加料金の存在です。
料金が高額になる二大要因
正規サービスにおけるコンプリートサービスで料金が跳ね上がる主な要因は、以下の2つです。
パーツ交換費用の発生
最も一般的な追加要因です。推奨年数を超えて使用し続けた場合、あるいは衝撃や水入りなどの事故があった場合、ムーブメント内部の歯車、ゼンマイ、輪列部品などが摩耗・破損している可能性があります。これらのパーツを純正新品に交換する費用が、基本料金に加算されます。
教訓:グランドセイコー オーバーホールは値上げの傾向が続く中で、このパーツ交換費用を抑える最善の方法は、メーカーが推奨する2~4年ごとの頻度を厳守することです。定期的なメンテナンスによって、摩耗が軽度なうちに手を打つことが、結果的に生涯トータルの維持費を安くすることにつながります。
外装研磨(ポリッシュ)の追加
基本料金には軽微なケースの清掃が含まれますが、長年の使用で生じた深いキズや打痕を消すためには、別途外装研磨(フルポリッシュ)を依頼する必要があります。特にグランドセイコーの特徴であるザラツ研磨を伴う外装仕上げは高度な技術を要するため、オプション料金も高額になります。
判断基準:キズの状態と、時計の資産価値の維持を重視するかどうかで判断が分かれます。ヴィンテージ感を大切にしたい場合は、研磨を避ける選択肢もあります。
近年の「値上げ」傾向とオーナーが取るべき行動
近年、高級時計業界全体でオーバーホール値上げの動きが顕著です。その背景には、部品製造コストの上昇、為替変動、そして技術者の育成・維持にかかるコスト増などが複合的に絡んでいます。その結果以前よりも料金改定の間隔が短縮される傾向にあり、数年おきに数パーセントの値上げが行われるケースが見られます。
- 公式サイトの確認:依頼を決める直前に、必ずグランドセイコー公式サイトのサービス料金ページで最新の金額を確認してください。
- 早めの依頼:「そろそろ目安の時期だ」と感じたら、値上げ前に依頼を済ませるというのも、賢いコスト戦略の一つです。
この費用を時計の未来への投資と捉え、適切な頻度とサービス内容を選択することが、グランドセイコーの真のオーナーシップと言えるでしょう。
オーナーが重視すべき「修理後の保証」と「メンテナンス記録」の価値
グランドセイコーのオーバーホールを正規サービスに持ち込み依頼する最大の理由の一つは、単に分解掃除が終わるだけでなく、その後の「保証」と「記録」という付加価値が得られる点にあります。これらは、時計を長期的に所有し、将来的な価値を考える上で非常に重要な要素です。
メンテナンス作業後の「メーカー保証」による安心
正規のコンプリートサービスが完了した後、グランドセイコーでは通常、一定期間の保証が付与されます。
- 具体的な保証期間: 2025年9月現在(の想定)では、完了日から1年間の保証が一般的です。
- 保証の対象: 再組立したムーブメント内部の不具合や精度不良など、メンテナンス作業に起因する故障が対象となります。
- 価値: もし作業完了後すぐに時計の精度に問題が生じたり、動作がおかしくなったりした場合でも、この保証期間内であれば無償で再調整や再修理を受けることができます。費用をかけてメンテナンスをした後の「もしも」に対する、メーカーからの強力なバックアップと言えます。
メンテナンス記録がもたらす「資産価値の証明」
高級時計は、その後のリセールバリュー(再販価値)も重要なポイントです。このとき、正規サービスを利用した際に残るメンテナンス記録が大きな力を発揮します。
- 信頼性の証明: 正規サービスで定期的にオーバーホールされた履歴は、その時計がメーカーの基準に則って正しく維持管理されてきたという確固たる証明になります。
- 査定額への影響: 中古市場において、正規のコンプリートサービスを施された時計は、メンテナンス履歴が不明確な時計よりも高額で取引される傾向にあります。特にグランドセイコーのように市場評価の高いモデルでは、定期的なメーカー修理の記録は、買い手にとって非常に重要な判断材料となります。
したがって、オーバーホール費用を考える際は、単に作業料金として見るのではなく、「時計のコンディションを保証する費用」、そして「将来的な資産価値を維持・向上させるための保険料」として捉えるべきでしょう。この記録こそが、あなたがグランドセイコーオーナーとして時計に対して誠実に向き合ってきた証となるのです。
グランドセイコーオーナーのためのQ&A

- スプリングドライブのオーバーホール頻度がメカニカルより長めなのはなぜですか?
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スプリングドライブ(9R系)の推奨頻度(約3~4年)が、メカニカル(9S系、約2~3年)より長いのは、その駆動機構の根本的な違いにあります。機械式時計は、テンプとガンギ車、アンクルが高速で接触・摩擦し合うことで精度を保ちますが、スプリングドライブは、この調速機構の一部を電子回路で制御しています。
特に、精度を司る「トライシンクロレギュレーター」の心臓部には、従来の機械式のような摩擦が発生する部品がありません。そのため、オイルの劣化による部品摩耗が極めて少なく、結果としてオーバーホールの推奨期間を長くとることができるのです。
- クォーツ(9F)の電池交換は一般的な時計店でやっても問題ないですか?
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結論から言えば、一般的な時計店での電池交換は推奨されません。
グランドセイコーのクォーツ(9F系)は、高い精度と防水性を保つために、正規サービスへ持ち込むことが強く推奨されます。これは、単なる電池交換ではなく、時計の品質を維持するための必須のメンテナンスだからです。
正規サービスでは、最低限の「電池交換」(8,800円目安)であっても、以下の重要な作業が必ず含まれます。
- 防水性の確保(パッキン交換):電池交換と同時に、裏蓋やリューズのパッキン(純正新品)を交換し、防水性を維持します。一般的な時計店では純正部品の取り扱いがないリスクがあります。
- 基本検査:9Fクォーツの特殊な構造を理解した上で作業が行われ、基本的な動作チェックと電流測定が含まれます。
さらに、より万全を期したいオーナーのために、正規サービスでは「バッテリープラスサービス」(11,000円目安)が用意されています。こちらは、上記の基本作業に加え、回路の精度確認・調整と1年間の精度保証という、9Fクォーツの核心的な性能を維持するための付加価値を提供します。
11,000円の費用で時計本来の精度を保証し、長期的な安心感を得ることができるため、こちらを選択するオーナーも非常に多いのが実情です。
- 故障か、オーバーホール時期かの判断基準は?
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時計の状態が「単なる油切れ」なのか、「パーツの故障」なのかを判断する最も簡単な基準は「日差(ひさ)」の拡大です。
- オーバーホール時期のサイン:日差が徐々に、しかし確実にメーカー規定の精度から外れ始めた場合(例:メカニカルで日差が+10秒以上になってきた)、これは潤滑油の劣化や汚れの固着によるものです。この段階であれば、コンプリートサービスで改善される可能性が高いです。
- 故障の可能性が高いサイン:突然、日差が数十秒〜数分単位で大きく狂ったり、カレンダーが指定時刻に切り替わらなくなったり、ゼンマイを巻いてもすぐに止まってしまう場合は、内部パーツの破損や脱進機のトラブルなど、故障である可能性が高いです。この場合は放置せず、すぐに修理受付に持ち込みましょう。
- グランドセイコー 修理受付時の納期はどのくらいが目安ですか?
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グランドセイコーの納期は、修理内容によって大きく異なります。公式サイトには「修理品到着後、約2週間~4週間」と記載されていますが、これは主に電池交換や軽微な修理の場合です。
最も時間がかかるコンプリートサービス(オーバーホール)を依頼する場合、実際の納期は以下の段階を経て、長くなる傾向にあります。
- 見積もり期間: 依頼品到着から、正式な見積もりが届くまでが約2週間。
- 本作業期間(承認後):
- コンプリートサービス(OH)のみ:通常、約4週間~6週間が目安です。
- OH+外装研磨(ポリッシュ):外装仕上げの工程が加わるため、約8週間以上かかる場合もあります。
つまり、トータルで見ると、オーバーホールの場合は最短でも5週間、複雑な修理や混雑状況によってはそれ以上かかるのが実情です。そのため、オーナーは余裕を持って依頼することが非常に重要になります。
- 複数のグランドセイコーを所有している場合、メンテナンスのローテーションはどう組むべきですか?
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複数の機械式モデル(9S系)をお持ちの場合、使用頻度を問わず、ムーブメントを動かさなくても油は劣化するという原則を理解しておくことが重要です。
最も理想的なローテーションは、推奨年数(2~3年)を基準に、所有する本数を分散させて依頼することです。例えば、3本お持ちであれば、毎年1本ずつオーバーホールに出すローテーションを組むことで、突然の多額の出費を避け、常にいずれかの時計が最高の状態で使用できる環境を維持できます。これは、長期的な維持費の平準化に有効なオーナー戦略です。
グランドセイコーのオーバーホール持ち込み:愛機を未来へ繋ぐための総括
- 正規サービスのメンテナンス記録は将来的なリセールバリューを高める資産となる
- 正規サービスへの持ち込みは対面での安心感と確実な意思伝達に優れる
- 保証書がない場合でもグランドセイコーのオーバーホール持ち込みは原則可能である
- 持ち込み先は正規サービスと修理専門店の二択で、それぞれメリットとリスクがある
- 資産価値維持のためには費用が高くても純正部品を使用する正規サービスが推奨される
- メカニカル(9S系)のオーバーホールは約2~3年ごとが推奨頻度である
- スプリングドライブ(9R系)の推奨頻度はメカニカルより長く約3~4年である
- クォーツ(9F系)は約7~8年ごとのコンプリートサービスが推奨される
- 長期放置は部品摩耗を引き起こし、高額な修理費用が発生するリスクがある
- 正規サービスではムーブメント修理に加えライトポリッシュが基本料金に含まれる
- 深いキズを直すフルポリッシュ(外装リペアポリッシュ)は別料金のオプションである
- 正規料金はムーブメントの種類で異なり、事前に最新料金の確認が必要である
- 有償修理の場合、持ち込みであっても別途1,650円目安の諸掛り費用が発生する
- クォーツの電池交換サービスは精度保証が付く「バッテリープラスサービス」が推奨される
- オーバーホール完了後にはメーカー保証が付与され再度の不具合に備えられる
この記事を通じて、あなたはグランドセイコーのオーバーホール持ち込みに関する確かな知識を手に入れました。
グランドセイコーのオーナーシップとは、その性能と美しさを維持するために、正規のコンプリートサービスという責任を果たすことにあります。
どこに持ち込むかという選択は、あなたが何を最も重視するかによって決まります。しかし、定期的なメンテナンスこそが、あなたのグランドセイコーを長く最高の状態に保ち、将来的な価値を守るための唯一の方法です。
自信をもって、最寄りのサービス窓口へ愛機を持ち込みましょう。最高のメンテナンスを終えた時計は、きっとこれまで以上にあなたにとってかけがえのない存在となるでしょう。あなたのグランドクロノメーターとの素晴らしい時が、これからも長く続くことを願っています。