「クレドール オルディネール シリーズ」という名称を中古市場やアンティークショップで見かけ、その端正な佇まいが気になった方は少なくないはずです。しかし同時に、「30年以上前のクォーツモデルを今選んでもメンテナンスは可能なのか」「なぜ現行の公式ラインナップにその名称が載っていないのか」といった疑問を抱く読者も多いでしょう。
1986年にクレドールが発表したオルディネールは、「使いやすく、いつの時代も価値ある普遍性を追求する」というシリーズコンセプトのもとにデザインされました。当時はラインナップの中でも高い人気を集めたシリーズのひとつであり、現在では中古市場や時計愛好家の間で、クラシックなドレスウォッチとして評価されています。
本記事では、オルディネールの歴史的背景から代表モデルのスペック、そしてメーカーによる修理・アフターサービスの基本的な対応方針まで、公式情報に基づいて詳しく解説します。時を経ても変わらない日本の美意識に触れ、オルディネールの魅力を理解する助けになれば幸いです。
- オルディネールの誕生背景と消えた理由
- 代表モデルの特徴と中古相場の目安
- 現在の修理可否と安心して使う条件
普遍を冠したクレドール オルディネール シリーズの歴史と魅力

クレドールの歴史を振り返ると、1980年代後半はクレドールが高級ドレスウォッチとしての個性を確立しつつ、日常の使いやすさと洗練されたデザインの両立を模索していた時期と位置づけられています。その過程で、1986年に登場したのがオルディネール シリーズです。
1986年の誕生とカタログから「消失」した背景
「Ordinaire(オルディネール)」という名称を冠したこのシリーズは、公式のヒストリーにあるように、「使いやすく、いつの時代も価値ある普遍性」を追求する理念のもとに誕生しました。1980年代、クォーツ化による時計精度の進化が進むなか、クレドールは長く使える普遍的なドレスウォッチを目指したデザインとしてオルディネールを展開しました。
発表から90年代にかけて、オルディネールは複数のバリエーションが展開され、現在も中古市場で多く見かけられる定番的なシリーズとなりました。しかし2000年代に入ると、クレドールは「シグノ」や「リネアルクス」など、新しいコンセプトシリーズを中心としたラインナップへと再編されていきました。その過程で、オルディネールという名称は、クレドールの現行ラインナップには見られなくなりました。
現在、公式サイトのヒストリーにはオルディネールの登場が記載されていますが、現行モデルとしてはラインナップに含まれていません。この事実は、オルディネールがクレドールの歴史において長く語り継がれる一シリーズであることを示しています。

例外的に復活した「オルディネール30周年記念モデル」という存在
こうしてカタログ上から姿を消した「オルディネール」ですが、その名称が完全に過去のものとなったわけではありません。
2016年、オルディネール誕生から30周年という節目に、クレドールは例外的にこの名を公式に掲げた限定モデルを発表しています。それが「オルディネール30周年記念モデル GCAR056」です。なお同時に、シェル文字盤にダイヤがあしらわれたレディースモデル「GSAS056」もペア限定モデルとして展開されました。
GCAR056は、限定200本のみが製造された特別仕様で、文字盤はシナモン・ブラウン。基本デザインにはオルディネールの思想──すなわち、過度な装飾を排した端正な造形と、日常使いを前提とした実用性──が色濃く反映されています。一方で、ケース素材にはブライトチタンを採用し、ベゼルには18Kピンクゴールドを組み合わせるなど、軽量性と上質感を両立させた現代的なアップデートも施されました。
ムーブメントには年差クォーツ「8J81」を搭載し、高精度と薄型ケースを両立。文字盤には30周年を象徴する30本の横方向ライン装飾が与えられ、裏ぶたには「Limited Edition」の刻印が入るなど、周年記念モデルとしての特別性も明確に示されています。
注目すべき点は、このGCAR056が、メーカー公式に「オルディネール誕生30周年」を記念するモデルとして位置づけられ、シリーズ名を再び前面に掲げた極めて稀な事例であることです。これは、オルディネールが単に整理・統合された過去のシリーズではなく、クレドールの思想的な基盤として今なお重要な意味を持つ存在であることを、ブランド自らが示した証左といえるでしょう。
つまりGCAR056の存在は、「オルディネールは終わったシリーズなのか」という問いに対し、「思想としては現在も生き続けている」という答えを、極めて静かに、しかし明確に示しているのです。
グランドセイコーとの違いと「30年前のクレドール」が選ばれる理由

セイコーの二大高級ブランドとして並び立つ「グランドセイコー(GS)」と「クレドール」ですが、その設計思想は対照的です。GSが「最高の普通」を掲げ、時刻の読み取りやすさや実用精度を追求する傾向にあるのに対し、クレドールは「日本ならではの美意識」を貴金属や仕上げ技術で表現するスタイルを歩んできました。
30年以上前のオルディネールが、今なお中古市場や時計愛好家の間でクラシックなドレスウォッチとして評価されている理由は、主に以下の3つの要素にあると考えられます。
- 機能美を追求した薄型設計: 過剰な装飾や厚みを抑えたデザインは袖口への収まりが良く、現代の洗練された装いにも調和します。
- 高い仕上げ技術の維持: 熟練の職人による針の仕上げや、多面カットを施したインデックスの輝きは、製造から年月を経てもなお、工芸品としての質感を保っています。
- クラシックなサイズ感: 当時のメンズ標準であった33〜35mm径は、現代においては知的で控えめなドレスサイズとして再評価されています。
「黄金の頂き」という名に相応しい品質を維持しながら、日常に溶け込む慎ましさを備えたオルディネール。それは、自身の価値観に基づき、落ち着いた品格を求める愛好家にとって、一つの有力な選択肢となっています。
このように、オルディネールはクレドールの歴史の中で一度役目を終えながらも、30周年記念モデルという形で公式に回顧された、思想的に重要なシリーズであることが分かります。
しかし、ここで多くの読者が次に抱く疑問は極めて現実的なものでしょう。
「30年以上前に製造されたクォーツ時計を、今も安心して使い続けることはできるのか?」
どれほど完成度の高いデザインであっても、メーカーによる修理やメンテナンスが受けられなければ、日常使いの時計として選ぶことはできません。特にオルディネールの多くは1980〜90年代のモデルであり、電子部品や回路の供給状況は購入前に必ず確認すべき重要なポイントです。
次章では、代表的な型番や中古相場といった具体的なデータに加え、セイコー公式アフターサービスの受付基準をもとに、「どこまでが現実的に維持できるラインなのか」を客観的に整理していきます。
クレドールというブランドの立ち位置や、グランドセイコー、さらには世界の高級時計と比べたときの評価軸については、別記事でより体系的に整理しています。
▶︎【永久保存版】クレドールの格付けは一流か? グランドセイコー、そして世界の頂点と比べる「技術と美意識」の3つの本質的価値
【型番・価格・修理】オルディネールを安心して選ぶための完全データ

中古市場でクレドール オルディネール シリーズを検討する際、多くの方が重視するのは「どのモデルが自分に合うのか」「適正な価格はいくらか」、そして「維持し続けられるのか」という実用的な観点でしょう。ここでは、検討の指針となる具体的なデータとメーカーのアフターサービスに関する基本的な考え方について整理します。
※修理可否は、型番・ムーブメント・部品在庫の状況によって個別に判断されます。本記事では、2026年現在時点で確認できるセイコー公式アフターサービス情報と、過去の対応事例から読み取れる一般的な傾向をもとに解説しています。
代表モデルと「年差クォーツ」という技術的裏付け
オルディネールの特徴を支える要素の一つに、高精度なクォーツムーブメントの存在があります。特にメンズモデルに多く搭載されている「8J系」ムーブメントは、一般的なクォーツが月差±15秒程度とされる中で、設計上は年差±10秒以内という高精度を目標に開発されたムーブメントとして知られています。
- 8J86-6A10(メンズ): ステンレススチール製のケースに、視認性に配慮したバーインデックスを配した、シリーズを代表するモデルの一つです。その薄型設計と高精度は、フォーマルな場面でも使いやすい実用性の高さとして評価されていました。
- GKAM980(18Kコンビ): ベゼルやリューズに18金を用いた仕様です。ゴールドの質感とステンレスの剛性が調和し、落ち着いた華やかさと実用性を両立させています。
- GKTY980(レディース): 「セイコー クレドール レディース」の中でも、約25mm前後のケース径を持つとされる上品なドレスモデルです。アクセサリーとしての美しさと、時計としての機能性を兼ね備えています。
以下の表は、中古市場で比較的見かけることの多い主要モデルのスペックを整理したものです。
| 型番(代表例) | 主なムーブメント | ケース径 | 素材 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 8J86-6A10 | 年差クォーツ | 約35mm | SS | 初期オルディネールの定番 |
| GKAM980 | 年差クォーツ | 約33mm | SS×18K | コンビ仕様の代表例 |
| GKTY980 | クォーツ | 約25mm | SS×18K | レディースモデル |
| ― | ― | ― | ― | ― |
| GCAR056 | 年差クォーツ(8J81) | 37mm | BT×18KPG | 30周年記念(メンズ)・限定200本 |
| GSAS056 | 年差クォーツ(4J81) | 約25mm | BT×18KPG | 30周年記念(レディース)・限定200本 |
『CREDOR クレドール オルディネール』GKAM980:高山質店
中古相場の目安と個体選びのポイント
クレドール オルディネールの中古相場は、素材やコンディションによって一定の幅があります。直近の中古市場を参考にすると、ステンレスモデルはおおよそ5万円〜12万円前後、貴金属を用いたコンビモデルや状態の良好な個体では15万円〜25万円程度で見られるケースが多いようです。
個体選びにおいて留意すべき点は、外装の傷以上に「文字盤の経年変化」です。製造から年月が経過したモデルの中には、保管状況や湿気の影響で文字盤に微細な変色が生じているものもあります。また、ブレスレットの「伸び」も装着感に直結するため、商品写真や説明文等でコマの緩みを慎重に確認することをお勧めします。
ヴィンテージの範疇に入るモデルであるため、購入時は当時の定価を基準にするよりも、現在のコンディションと整備歴を重視することが、納得のいく選択に繋がると考えられます。
なお、同じクレドールでも「叡智」などの工芸モデルは、価格形成や中古市場での評価軸が大きく異なります。
クレドール全体の中古購入戦略については、以下の記事も参考になるでしょう。
▶︎ 日本の粋「クレドール 叡智」を中古で賢く探す:価格動向と後悔しないための全知識
メーカー公式修理の対応方針とオーバーホール費用
「古いクレドールは修理できるのか」という点について、セイコーは公式アフターサービスとして明確な修理受付方針を提示しています。公式サイトの案内によれば、製造終了から長期間が経過したモデルであっても、部品在庫がある限り修理を受け付けています。
- 修理受付の判断: セイコーは補修用部品を通常10年以上保有していますが、それを過ぎたモデルでも代替部品の使用や個体ごとの状態に応じた調整によって、対応可能と判断されるケースもあります。ただし、回路ブロックなどの基幹部品が払底している場合は「修理不可」と判断される可能性がある点には注意が必要です。
- 費用と期間の目安: クレドールのクォーツモデルにおけるオーバーホール料金は、概ね48,400円(税込)からとされています。納期は修理内容や部品の有無によって異なりますが、目安として数週間程度と案内されることが多いようです。
メーカーによる正規のメンテナンスが受けられる可能性は、数十年前に製造されたモデルを検討する上で大きな安心材料となります。検討中の個体がある場合は、まずはメーカーのオンライン修理受付やカスタマーサービスへ相談してみるのが、維持管理における堅実な方法といえるでしょう。
本記事ではオルディネールに焦点を当てていますが、クレドール全体の定価体系や最新の中古相場を俯瞰したい方は、こちらの総合ガイドも併せてご覧ください。
▶︎セイコー クレドール価格のすべて:現行定価と中古相場を完全ガイド
クレドール オルディネールを「所有する」という楽しみ

オルディネールを手にすることは、単に時刻を知る道具を選ぶというよりも、日本の時計づくりが培ってきた控えめで上質な価値観を日常に取り入れる行為と捉えることができます。ここでは、この時計を所有することで感じ取れる価値観について触れます。
ベルト交換で「ヴィンテージ・ドレス」の表情を楽しむ
オルディネールには、当時メタルブレスレット仕様として販売されたモデルも多く存在します。そのしなやかな装着感はクレドールならではの魅力ですが、あえてレザーストラップに交換することで、この時計は全く別の表情を見せてくれます。
例えば、ステンレスモデルに上質なマットブラックのアリゲーターストラップを合わせることで、クラシックなヴィンテージ・ドレスウォッチを思わせる、よりストイックで知的な印象を楽しむことができます。また、コンビモデルにブラウンのクロコダイルを合わせれば、18Kゴールドの質感が強調され、装いに落ち着いた華やかさを添えるアクセントとなるでしょう。
このように、ベルト一つで現代的な実用時計からクラシックな表情へと雰囲気を変えられるのは、オルディネールが時代性に左右されにくいデザイン思想を持っているためといえるでしょう。
この時計に共感する価値観と、その先にあるもの

クレドール オルディネールは、以下のような価値観を大切にする方に特に共感されやすい時計といえるでしょう。
- 「語らずとも伝わる品質」を求める方: ブランドの知名度やサイズ感で自己主張するのではなく、細部の仕上げや袖口への収まりの良さに、自分だけの満足感を見出せる方。
- 長期的に愛用できるデザインを大切にしたい方: 数年で変化するトレンドではなく、30年を経た現在でも美しさを保ち、この先も使い続けたいと思える普遍的な形を求める方。
- 日本のクラフトマンシップを評価する方: セイコーが積み上げてきた高精度な技術と、職人の手仕事が融合した、日本独自の高級感を好む方。
オルディネールという名が示す「Ordinaire(日常)」とは、決して平凡を意味する言葉ではありません。むしろ、時を重ねるほどに価値が滲み出る、静かな贅沢を指していたのではないでしょうか。
1986年に生まれ、役割を終え、そして30周年という節目に公式に振り返られたこのシリーズは、流行や話題性とは異なる時間軸で評価されるべき存在です。腕元で主張するのではなく、日々の所作にそっと寄り添い続ける——その姿勢こそが、オルディネールが今も選ばれ続ける理由なのだと思います。
投機やスペック競争に疲れたとき、あらためて「長く使い続けられる美しさ」とは何かを考えさせてくれる時計。オルディネールは、そんな問いを静かに投げかけてきます。
もしあなたが、次の一本に“新しさ”ではなく“確かさ”を求めているなら。この30年前の名作は、きっと日常の時間そのものを、少しだけ豊かにしてくれるはずです。
※本記事は、2026年現在時点で確認できる公式情報と一般的な市場動向をもとに構成しています。
クレドール オルディネール シリーズについてのよくある質問(FAQ)
クレドール オルディネール シリーズについてよく検索される疑問を、事実ベースで簡潔にまとめました。購入検討や記事の要点確認にお役立てください。
- クレドール オルディネールは現在も販売されていますか?
-
いいえ。2026年現在時点で、クレドールの現行ラインナップに「オルディネール」シリーズは存在しません。主に中古市場で流通しています。
- クレドール オルディネールは今もメーカー修理できますか?
-
型番や部品在庫次第ですが、条件を満たせばメーカー修理が受け付けられる可能性があります。事前確認が重要です。
- オルディネールの定価はいくらでしたか?
-
モデルにより異なりますが、当時の定価は概ね30万〜50万円台が中心でした。現在は中古価格で評価されます。
- オルディネールに復刻モデルはありますか?
-
はい。2018年に30周年記念モデル「GCAR056」が限定200本で発売されました。これが唯一の公式復刻例です。
- クレドール オルディネールを選ぶメリットは何ですか?
-
流行に左右されないデザインと高精度クォーツを備え、30年経ても日常使いできる実用的な工芸品である点です。
参考リンク・出典一覧
参考文献・出典一覧(タップで開く)
セイコー公式サイト|クレドール ブランドサイト
https://www.credor.com/
セイコー公式サイト|クレドール修理受付
https://repair.seiko-watch.co.jp/menu/cr.html
自由が丘 一誠堂|オルディネール30周年記念モデル 限定200本 クレドール GCAR056
https://www.isseido.co.jp/news/%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%AB30%E5%91%A8%E5%B9%B4%E8%A8%98%E5%BF%B5%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB-%E9%99%90%E5%AE%9A200%E6%9C%AC%E3%80%80%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%89
セイコー公式サイト|1E・2F・2J・4J・4N・5A・73・8J・8N・95系 取扱説明書
https://www.credor.com/support/instructions/data/credor_BGAQC_ja/
各種中古時計販売店・流通データ(相場参考)
・ジャックロード
https://www.jackroad.co.jp/shop/default.aspx
・コミット銀座
https://commit-watch.co.jp/
・Chrono24(国内流通相場参考)
https://www.chrono24.jp/

